唯一無二の街、銀座

    2013/11/8


 昔も今も銀座は料理店の憧れの場所だし、客筋も抜群だ。たしかに最高級の寿司、天ぷら、日本料理、フレンチ、ステーキが軒を並べる。が、金にあかしてそうした店ばかり訪れているようではまだまだ半可通。
本当の銀座の粋を知る人たちは、毎日バカ高いものばかり食べているわけじゃあない。

 たとえば八丁目の雑居ビルに潜む「割烹 未能一」。
二十年ほど前はひとり5円以上取る高級日本料理店で、同伴客が鯛の頭の煮つけの目玉の周辺だけ食べて、あとはホステスに渡していたなんてバブリーな逸話もあるのだが、いまは夫婦ふたりで経営しているから、ハードルも低くなった。

 が、料理のクオリティは当時と変わらない。「蒟蒻の酒盗卵和え」は地味な料理だが、じっくり5時間かけて乾煎りした蒟蒻に酒盗の塩味、黄身のコクが加わった傑作。
こんな素朴な料理はネットグルメではなかなか評価されないが、銀座の遊び人はそういう料理を評価する。

 松坂屋の裏手にある料理屋「松島」も、最高級の素材をシンプルに出す、知る人ぞ知る店だったが、あの一帯の再開発で一時営業休止。
三年後に戻ってくる予定だとか。東北弁の女将はお元気だろうか。

 八丁目の「鳥長」もそう。
こまかい路地を入ったところにあるから、一見は滅多にこないが、けっして高い店ではない。
だが、ここは遊びなれた銀座の主人たちが焼鳥を楽しむパラダイス。なにも言わずにまずは柚子風味のツクネが出て、あとはお好み。最後に出される鶏出汁のみそ汁が抜群。
実は二階に座敷があり、その雰囲気が昭和がかって最高なのは、よほどの常連でないと知らないだろう。

 地味な旨さとは一見真逆だが、銀座通が好むもうひとつの要素に「童心に戻れるうまさ」がある。
そもそも銀座は、毎日ストレスを抱えながら仕事をこなしているビジネスマンが精神を解放して、明日への活力をたくわえる癒しの街。
料理にだって、そうした癒しを求めるというわけ。

 たとえば、ステーキで有名な「加藤牛肉店」の「コーンビーフバケット」。
牛ブロックをゆっくり煮て繊維をほぐした自家製コーンビーフをバケットに乗せた一品で、子供のころ、こっそり買った缶詰のコンビーフを分厚く切って齧るうまさを知っている世代なら、本物のうまさに驚くことだろう。

 カウンターでワインを楽しみながら、洋食が食べられる「玉木」では締めのメンチカツやオムライスが人気だし、隠れ家割烹の代表である「大羽」はポテサラコロッケが有名だ。
どれも、子どもの頃に食べた味を大人向けにアレンジした逸品になっているのだ。

 考えてみれば銀座のクラブだって、童心に戻り、日常を忘れて羽目を外す楽しさを味わう場所だ。
昔、高級クラブのママがこんなことを言っていたのを思い出す。

「銀座で遊びなれた人は、奥様と違ったタイプの子と遊ぶの。同じようなタイプを選ぶような人は日常生活を引きずっているだけで、のめり込むから恐い。まだまだ子供ね」
料理店の選び方も同じかもしれない。

東京いい店うまい店編集長
柏原光太郎

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